重さ300キロを超える車体を意のままに操るための取り回しと引き起こし
白バイ隊員の洗練されたライディング技術の裏には、血のにじむような泥臭く過酷な基礎訓練が存在します。
彼らが乗務する白バイは、各種の専用装備や無線機、重厚なバンパーなどが搭載されており、その車体重量は300キロを優に超える巨大な鉄の塊です。
白バイ専科と呼ばれる訓練施設に入所した隊員候補生たちが最初に直面する試練が、この重い車体の「取り回し」と「引き起こし」の徹底的な反復練習です。
エンジンをかけずに自分の腕と足の力だけで白バイを押して走り、指定されたコースを素早く移動する訓練は、心肺機能と強靭な足腰を極限まで鍛え上げます。
さらに、わざと車体を横倒しにし、それを一人で素早く引き起こす訓練を、体力が尽き果てるまで何十回も連続で行います。
公道でのパトロール中に万が一にも車体を倒してしまい、それを起こせずに違反者を取り逃がすような事態は絶対に許されません。
教官からの厳しい指導のもと、全身の筋肉が悲鳴を上げるような過酷な基礎体力錬成を乗り越えた者だけが、次のステップである本格的な乗車訓練に進むことを許されるのです。
極限のバランス感覚と繊細な操作を養う低速バランス訓練
白バイ隊員の運転技術と聞くと、サイレンを鳴らして違反車両を猛スピードで追いかける高速走行の技術を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、実際の訓練で最も長い時間を割いて徹底的に叩き込まれるのは、実は歩くようなスピードで車体をコントロールする「極低速でのバランス訓練」です。
彼らは、わずか数十センチ幅の細い一本橋の上を、タイヤを止める寸前の極限まで遅い速度で、絶対に足をつくことなく渡り切る技術を身につけます。
また、パイロンが極端に狭い間隔で設置された千鳥走行のコースでは、巨大な車体を大きく傾け、ステップやバンパーを地面に擦りながら、フルロックの状態で小刻みにターンを繰り返します。
この人間離れした低速でのバランスを維持するためには、アクセルのわずかな開け閉め、半クラッチの絶妙な繋ぎ具合、そしてリアブレーキの繊細な踏み込みという三つの操作を、一ミリの狂いもなく同時に同調させなければなりません。
この地味で過酷な低速訓練こそが、渋滞している細い路地や、歩行者が行き交う混雑した交差点において、安全かつ確実に違反車両を追跡するための絶対的な基礎技術となっているのです。
不測の事態や悪路での車両コントロールを学ぶオフロード訓練
白バイの訓練において一般的にあまり知られていないのが、舗装されていない土や砂利道の上で行われる本格的なオフロード訓練の存在です。
白バイは基本的にアスファルトの公道を走るためのオンロードバイクですが、訓練ではあえて専用のオフロードバイクに乗り換え、泥だらけになりながらスリップや転倒の限界を学ぶカリキュラムが用意されています。
滑りやすい不整地を走ることで、タイヤがグリップを失って車体が横滑りし始めた瞬間の挙動や、そこから転倒せずに体勢を立て直すための適切な体重移動、そしてカウンターあてなどのリカバリー技術を体で覚えることが目的です。
このオフロードで培われた高度なスライドコントロールの技術とバランス感覚は、雨の日の滑りやすい白線やマンホールの上を走行する際や、突然道路に砂利が浮いているのを発見した際など、予期せぬ路面変化やパニック状態に直面した時に絶大な威力を発揮します。
常にどのような悪条件の路面であっても、決してパニックに陥ることなく冷静に車体を制御し、自分自身の安全と周囲の安全を守りながら任務を遂行する能力は、こうした泥臭い土の上での訓練によって磨き上げられているのです。
