視界不良と滑りやすい特殊な路面がもたらす恐怖
オートレースが行われるオーバルのコースには、一般的な公道とは異なる特殊なアスファルトが敷き詰められているのが特徴です。
この路面は晴れている日にはタイヤがしっかりと食い付き、非常に高いグリップ力を発揮して選手たちの猛スピードでのコーナリングを支えています。
しかし、ひとたび雨が降って路面が濡れると、その状況は一変し、まるでスケートリンクのように極端に滑りやすい状態へと変貌します。
さらに恐ろしいのは、オートレースの競走車にはスピードを落とすためのブレーキが一切装着されていないことです。
選手たちはブレーキの代わりにエンジンブレーキの強弱と、車体を滑らせるスライドコントロールの技術のみで時速百キロを超えるスピードから減速し、急なコーナーに飛び込んでいかなければなりません。
また、前を走る競走車が跳ね上げる大量の水しぶきがウォーターウォールとなって襲いかかり、シールドを濡らして極度の視界不良を引き起こします。
滑りやすさと視界の悪さが重なる雨の日のレースは、ほんのわずかなミスが大事故に直結するため、プロのレーサーは計り知れない恐怖と精神的なプレッシャーと戦いながらアクセルを開け続けているのです。
晴れの日とは全く異なる雨用のセッティングとタイヤ選び
オートレースでは、選手自身が自分の競走車の整備を行う必要があります。
そのため、天候が雨に変われば、選手たちは限られた時間の中で急いで雨用のマシンのセッティングを施さなければなりません。
滑りやすい路面に合わせてエンジンの出力をマイルドに調整したり、サスペンションの硬さを変更したり、フレームの締め付けトルクを調整して車体に意図的な「しなり」を持たせることで、少しでもタイヤが路面を掴む感覚を得られるように工夫を凝らします。
また、何よりも勝敗を大きく分けるのが、タイヤの選択です。
オートレースでは全選手が同じ指定タイヤを使用しますが、雨の日には溝が深く残っている新しいタイヤを選んで水はけを良くし、ハイドロプレーニング現象を防ぐのが一般的です。
しかし、ただ溝が深ければ良いというわけではありません。
その日の気温や路面の温度、雨の降り具合によって最適なタイヤの硬さや接地感は微妙に変化します。
自身のライディングスタイルと完璧にマッチする一本のタイヤを見つけ出し、それに合わせてエンジンと車体のバランスを最適化する高度な整備技術が、雨の日のレースでは求められるのです。
レース展開を大きく左右する雨巧者の存在とコース取り
晴れの日のオートレースでは、コースの最も内側を走るインコースのラインが最短距離であり、そこをいかにキープするかが勝負の鉄則です。
しかし、雨が降るとその常識は完全に覆されます。
インコースは普段のレースでタイヤのゴムが擦り付けられているため、濡れると油を引いたように極端に滑りやすくなってしまうからです。
そのため、雨の日のレースでは選手たちは滑りやすいインコースを避け、あえてコースの外側を大きく回る「雨のライン」を探りながら走ります。
この雨のラインは日によって、あるいはレース中の雨の強さによって刻一刻と変化するため、どのラインが一番グリップするのかを瞬時に見極める鋭い直感が必要です。
選手の中にはこの濡れた路面でのライン取りやマシンコントロールを大の得意としている者たちがおり、ファンの間では「雨巧者」と呼ばれて恐れられています。
オートレースは実力に応じてスタート位置を下げるハンデキャップ制を採用していますが、このハンデは主に晴れの日のタイムを基準に決められています。
そのため、大雨が降ると雨巧者の選手が下位のハンデから一気に上位選手をごぼう抜きにするような大波乱が起きやすくなるため、最高にエキサイティングなドラマを生み出す舞台となっているのです。
